室伏鴻の踏み外し:従属的身体からユートピア的身体へ
ルイ14世治下に生まれたコレオグラフィは、ダンスの「正統なpas」を記号化し、身体を権力のもとに統制する政治的技術である。1913年、ニジンスキーは『春の祭典』でその規範を破り、意図的な「faux pas」を振り付けた。その振付は、共同体から逸脱し、死に向かう生贄の役に割り当てられたが、現実においても、ニジンスキーは狂気と死に接近したアウトサイダーとなった。また、「faux pas」という逸脱の概念を愛用していたのはブランショである。この両者の思想を受け、室伏鴻は即身仏をモチーフに死へ向かうダンスを踊った。ニジンスキーにせよ、室伏にせよ「踏み外し」の先に出現していたのはユートピア的身体だったのではないか。その歴史的・現代的意義を、身体と力の関係の系譜から考察する試みである。
Profile
東京都立大学人文社会学部准教授(舞台芸術研究、身体論)。著書に『コンテンポラリー・ダンスの現在 ノン・ダンス以後の地平』(国書刊行会、2020 年)、共著に『アンチ・ダンス 無為のコレオグラフィ』(水声社、2024 年)、論文に「Antibodyとしてのダンス. コンタクト・ゴンゾ『訓練されていない素人のための振付コンセプト』3部作を巡って」などがある。