ウィーンのカフェで

1994

from Diary

ウィーンのカフェで:今朝の洗面器のタイルにうつった私の影像は孤独な鷲のようだった。
そして私はその鷲を一日、身に帯びて暮らした。
けれど 誰も 私の鷲に気づくものはいなかった。
なぜなら私は鷲のように飛んだわけでも、鷲の言葉で鳴いたわけでもないであろうから……

いや、そうであったとしても、誰も見とがめはしなかったというだけか。
いや、確かに私はウィーンのカフェに孤独な鷲のように坐っていた。
私のクチバシが何回もコーヒーカップに当たって奇妙な音を鳴らすので
ガルソンが不審な、病の鳥でも非難するように見ていたではないか?

1994 Wien
室伏鴻