LE DERNIER EDEN―Porte de l'au-dela 最後の楽園─彼方の門─
1978
出口裕弘
拝啓 その後も連夜の公演で突っぱっておられますか。
今年のパリの冬は雨また雨、雪また雪、湿っぽい冬です。
2月2日の夜、レオーミュール・セバストポールの地下鉄駅で降りて、貴兄らの公演を見にゆきました。あの晩もやっぱり陰気な雨でしたが。
ボレロが鳴って、
三島由紀夫の自採直前の絶叫がきれぎれに響いて(不明にして僕はとっさに三島の声と直感できなかったけれど、
ふたりの、悲愁に沈んだ巫女(?)が、日本刀を持って、
貴兄が──あれはやはり女装というのでしょう、不気味に荒廃した貴婦人の姿で、
ボレロの漸次強音[クレッシェンド]にゆらゆらと踏み迷って、
……幻が、僕のモンマルトル山上の部屋に棲みついているようです。
ボレロに乗ったあのおどろおどろしい「日本」を、パリの紅毛人たちはどう見たことでしょう。
ともあれ、いま、好きなブルゴーニュの赤をあけて、貴兄らのパリ公演の御成功を祝しつつ乾杯!したところです。
お元気で。また。
室伏 鴻 様
1978年 2月19日
パリ市第18区ガブリエル街11番地にて